「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(2014年)英雄か?犯罪者か?

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現代コンピューターの誕生に大きく関わったイギリスの暗号解読・数学科アラン・チューリングの戦い・苦悩をベネディクト・カンバーバッチが演じた実話に基づく映画です。第二次世界大戦中のナチス・ドイツが使用していた暗号“エニグマ”の解読に挑み連合国軍を勝利に導いき、そこで用いられた仮想計算機チューリングマシンは、後のノイマンらによって発表された“プログラム”で機械を動かす世界初のコンピューターの数年前に稼働していたことになる。また当時イギリスでは違法とされていた同性愛により有罪判決を受けるその迫害の苦悩なども同時に描き“暗号解読に挑んだ天才の戦い”だけでないところが本作の裏テーマです。戦争において今では当たり前となった資源利用・戦術などに数学とコンピューターが使われ始めた時代を生きた天才の物語。

ストーリー(ネタバレ込み)

1951年に数学者アラン・チューリング宅に空き巣が入ったと通報があったが、本人チューリングは「盗まれたものはない、帰ってくれ」と被害届を出さない。チューリング宅には何やら大きな電子装置があり地元警察はソ連のスパイと疑い彼を取り調べます。第二次世界大戦中に政府の暗号解読施設“ブレッチリー・パーク”に勤務していたこと・自身の過去を振り返るのでした。1928年学生時代のチューリングをいじめから救って話し相手になってくれたクリストファーの読んでいた本から暗号解読の世界に興味を持ったチューリングは同時に同姓であるクリストファーへの恋心を抱くようになりますが、クリストファーは結核で若くして亡くなります。

それからは16歳でアインシュタインの文献を理解し、自信も論文を発表し大学の特別研究員・フェローに選出されるなど数学の分野でチューリングは頭角を表し、1939年にブレッチリー・パークを訪れ中佐・デニストン指揮のもとナチス暗号機“エニグマ”の解読チームの一員としてその頭脳を生かすことになります。しかし、同僚が暗号を解こうと考えている最中もチューリングは「マシンに勝てるのはマシン」と1人暗号解読のための機械製作に没頭し周囲と溝が生まれ、資金不足を補うためチャーチル首相に手紙を書くと承認され、チームの責任者になるとその場でチームの2人にクビを宣告するなど“周りとうまくやっていく”という考えはなく、「ソ連のスパイではないか?」と疑われるまでに。人員を補うため新聞にクロスワードパズルを掲載し後任を探していると、チューリングでも8分かかった問題を6分で解いてしまったジョーン・クラークという優秀な女性研究員を合格させます。しかし、彼女の両親は男性と同じ職場で働くことに反対し、チューリングはなんとか彼女をチームに入れようと傍受班にスカウトします。

ジョーンは「みんなと力を合わせて戦うのよ」とアドバイスし、チューリングはチームの同僚たちにリンゴを配り、少しずつ理解を得て解読マシン“クリストファー”を作り上げます。デニストン中佐が「何か結果を出したのか?終わりだ」とチューリングの解雇を命じますが、そこへチームの同僚たちが「それなら私もクビにしてください、彼は正しいことをしている」とチューリングをかばい“1ヶ月”の期限付きで開発は続行します。しかし、ジョーンが両親から「帰って来て、結婚し家庭に入りなさい」とブレッチリー・パークを去ろうとする彼女に対しチューリングは同性愛者にもかかわらず結婚を申し出るのでした。

約束の1か月が迫るなかジョーンの傍受班の同僚がドイツ兵から毎回同じ信号を送られていることを話し、特定の文字が含まれていればそこから解読できると推測します。毎朝6時に“天気・ハイル・ヒトラー”が含まれていて遂にチームは暗号の解読に成功します。しかし、ここで動いてしまえば“暗号が解けたこと”がドイツ側に伝わってしまい、チューリングは“少ない命を見捨て戦争に勝利する”苦渋の決断を選ぶのでした。

またケアンクロスがソ連のスパイであることを知り、彼から同性愛者であることをバラす、と脅されMI6のミギンスにそれを知らせると彼は全てを知っていて偽の情報をソ連に流すようスパイでさえ利用している、そしてチューリングが同性愛者あることも把握していたのでした。チューリングは自身が逮捕されること、イギリスがスパイを受け入れていることをバラせばジョーンまで危ない、などを考え彼女に全てを打ち明け婚約破棄を迫りますが、彼女はチューリングを「人間として数学者として尊敬している」と婚約破棄を受け入れ同僚として友達として、離れることを拒みました。大戦に勝利し歓喜に包まれるイギリスですが、ミンギスは「メンバー同士二度と会わないこと、今回の全ての口外を禁止する、資料も全てを燃やせ」と彼らを英雄扱いすることなくチームを解散、“エニグマ解読”が世間に知られることはありませんでした。

この話をしてソ連のスパイ容疑は晴れたチューリングですが、同性愛の罪で有罪判決を受け2年の服役かホルモン注射を迫られ注射を選び、彼は自宅で研究を続けます。新たなパートナーを見つけたジョーンが彼の家を訪れたころにはチューリングは手足が震え精神的にも弱っていました。ジョーンは「私たちが終戦を早め多くの命を救った、誰も予想しなかった人物が誰も想像しなかった偉業を成し遂げる」と彼を励まし、チューリングは自宅に作ったクリストファーを見つめ電気を消すのでした。この2年後チューリングが自宅で倒れているところを家政婦が見つけ、青酸カリでの自殺と断定され41歳でこの世を去るのでした。

まとめ

解読不可能と言われた暗号エニグマを解読した数学者の物語としても面白い物語でしたが、その過程でのチームのメンバーとの友情や自分を理解してくれるパートナーであるジョーンとは好きではあるが、性の対象ではないという複雑な関係に苦悩する演技もベネディクト・カンバーバッチはじめキャストが見事に演じた名作だと感じました。今後の戦争に備えてエニグマ解読を公表しなかったイギリス政府の判断は正しいものだと思いますが、英雄であるはずのチームのメンバーに対しての扱いが酷く、裏テーマである今では犯罪にならない罪で有罪判決まで受けてしまう当時の同性愛者への差別、採用試験さえ受けさせようとしないジョーンへの女性差別も同様。イギリスだけとは思いませんが、これらの差別によって何人の天才が埋もれ、世界は貴重な人材を失ったのだろうと思わせるシーンでした。

チューリングの死後、1966年からコンピューター科学の研究に貢献した人物に送られる賞に“チューリング賞”という名前が付けられ、2009年にはチューリングを同性愛者として有罪判決を出したことに対してイギリス政府に謝罪と名誉の回復を求める運動も始まり、ブラウン首相は政府として謝罪、2013年にはエリザベス2世が恩赦を発行、2019年には新50ポンド紙幣に採用された。

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