「フィラデルフィア」(1993年)愛する法と一体となり正義を成し遂げる

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トムハンクスが主演男優賞でオスカーを受賞した同性愛によるエイズの偏見・差別に法廷で立ち向かう映画です。といっても実際に弱っていくトムハンクスを弁護するのはデンゼル・ワシントンであり、「どちらが主演か選べ」と言われたら意見が分かれるほど本作での彼の功績は大きなものです。現代では手が触れただけで、近くに寄っただけでHIVに感染するわけないと周知されていますが、“エイズ”という言葉がようやく世界中に知られた時代には強い偏見があったことでしょう。

ストリート(ネタバレ込み)

フィラデルフィアの大手ウィーラー法律事務所に勤務し、日々手腕を振るう弁護士アンドリュー・ベケットエイズに感染し、額に不自然なシミが出来ていて上司に指摘されますが「少しぶつけただけ」と嘘をつきます。アンドリューは自身が同性愛者であること、エイズを患っていることを隠して仕事を続けますが、ある日大きな著作権訴訟に関する大事な資料をデスクに置いたはずが見つからず、なんとか裁判所に提出は間に合いましたが、後日アンドリューは事務所から突然の解雇を言い渡されるのでした。彼がエイズであることを理由にアンドリューをクビにするため書類を隠し、”重大なミス”という表向きの理由で解雇したのです。不当解雇を理由にかつて争った弁護士ジョ-・ミラーに弁護を依頼するが、この時点で9人の弁護士に断れていて、ミラーもアンドリューの弁護を断り、すぐに病院へ行きアンドリューから感染したのではないか検査を受け、自宅では妻に同性愛者に対する激しい差別感情を露にします。

ミラーが図書館で調べ物をしていると裁判に向け判例を探すアンドリューの姿があり、職員に「個室へ移りませんか?」とエイズ患者を隔離しようとし周りの利用所も逃げるように席を立ちます。それを見たミラーは「どう戦うつもりだ?」とアンドリューに話しかけ、過去のエイズ差別、病気を理由に不当解雇された裁判の判例、シミを指摘した重役がエイズ患者と同じ職場で働ていて額のシミからアンドリューのエイズに気付いていた可能性がある、ことなどの話し、ミラーは弁護を引き受けNBAのVIP席でウィーラーに法廷への召喚状を手渡します。

アンドリューは家族に事情を説明し理解を得て法廷に向かいます。事務所側が雇った弁護士ベリンダ・コーニンは「事務所側はエイズ感染を知らなかった、アンドリューは優秀な弁護士ではなかったから解雇されただけ」と主張、さらに「自身の性的嗜好が招いた結果であり、被害者の振りをするのは間違っている」と反論します。この裁判はメディアでも大きく取り上げられ弁護するミラーに対しても心無い声が浴びせられます。ミラーは「同性愛者への偏見がこの法廷・裁判に溢れている、この状態でまともな進行ができるのか、だったらオープンにするべきだ、その方が話しやすい、事件の本質について話すべきだ」と怒りの声を上げます。アンドリューが証言台に立ち「ウィーラーを弁護士として尊敬していた、雇われてから必死で働いた、本当のことを話そうとしたこともあったが、ゲイを笑いのネタにしているのを聞いて止めた」

ベリンダはアンドリューが同性愛者の集まる映画館へ度々出入りしていたことを持ち出し「今はシミが見られないようですが」と鏡を見せ、ミラーは追加尋問で裁判長の許可を得てアンドリューにYシャツを脱いでもらうと胸から腹にかけて無数のシミがあり確実に病状は進行していることが明らかになります。ウィーラーは最後までエイズであることに気が付かなかったと強く主張、その証言の途中でアンドリューは気を失い倒れ病院へ搬送されます。裁判前のバスケ会場で「示談に持ち込む」と主張していたボブ・サイドマンは「アンドリューのエイズを疑ったことがあったが、訪ねることはしなかった、今では後悔いている」と証言しました。陪審員は「クビ候補の無能な弁護士に大事な訴訟を任せるだろうか?3億5000万ドルの戦闘機にはトップの操縦士を起用するだろう」とアンドリューの主張を支持し、賠償金・慰謝料の支払いが事務所側に命じられました。

ミラーは病院へ勝利を報告に行きますが、既にアンドリューは呼吸器を付けてベッドから動けない状態でした。それでもアンドリューはミラーに感謝を告げ健闘を称えます。ミラーは「また来るからな」と病室を後にし、家族・親戚たちもアンドリューに「よく頑張った」と言葉を掛けるのでした。全員が帰った後アンドリューのパートナーであるミゲールに対し「これで逝けるよ」と言葉を残し、その夜息を引き取るのでした。数日後アンドリューとの別れを偲ぶため家族友人たちが集まりミラーも家族を連れて駆け付けます。テレビ画面にはホームビデオが映っていて子供のころのアンドリューが優しく笑っているのでした。

感想・まとめ

事務所の重役たちが悪人として最後まで描かれていますが、彼らにしてみてもこの当時エイズと聞いてアンドリューを気持ち悪く思ってしまうのも理解できる部分もあります。「病気を理由に突然解雇などあってはならない労働者の権利である」はもっともその通りですが、彼も明らかに自身の体の不調を感じ取っていたのは事実で、出世のための大きな訴訟を諦めて病気を正直にウィーラー に告白し、医学的説明でみんなに理解してもらおうと努めていたら状況は変わっていたのかもしれません。

作中での〇週間後や〇か月後のように実際の裁判には時間がかかりますが、そのたびに弱り痩せていくアンドリューの姿が胸に刺さります。また女の子が誕生したばかりのミラ―は事務所を訪れたアンドリューの手を凝視し「あちこち触らないでくれ、早く帰ってくれ」と内心思っている様子が伺えるシーンから最後はアンドリューの名誉のため尽力する姿に「偏見があるのは仕方ないが、その人を理解しようとすることで思いは変わる」と本作のメッセージを感じました。語られることはなかったですが、ミラー自身も黒人としてこれまで納得のいかない扱いを受けてきたことがあったのでは?とも考えてしまう、“BLM”が近年言われてきましたが、「黒人だって白人だってアジア人だって差別をしてしまう」それは共通してみんな”同じ人間”だから、でもミラーのように変わることができる。

トム・ハンクスの痩せ方はゾッとするくらい凄いですが、若きデンゼル・ワシントンの正義のために戦う姿も“黒人俳優”の地位を高めた自身のキャリアと重なるところがありますね、途中で途切れた命令を確かめる潜水艦映画「クリムゾン・タイド」がこの翌年に公開されたようです。アンドリューの恋人役ではこちらも存在感抜群のアントニオ・バンデラス、事務所側の女性弁護士は「バックトゥザフューチャー3」のクララでお馴染みのメアリー・スティーンバージェンという女優さんです。

「陪審員のみなさん、テレビのシーンは忘れてください。あっと驚く証人も、涙の告白もありません。ここにあるのは事実だけです」は映画を見ている我々に向けてのメッセージともとれるものでしたね。ただミラーとの尋問の練習に答えず熱心にオペラを歌うアンドリューのシーンはわからない…あれは何を表現したかったのか?それとオープニングのブルース・スプリングスティーンの「Streets of Philadelphia」がミスチルの「ALIVE」に聞こえた…

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