真梨幸子「5人のジュンコ」因果関係を知ろうと下手に糸を引っ張ってみようものなら

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真梨幸子さんの「5人のジュンコ」のレビュー記事になります。WOWOWのドラマ版は見ていないのでそちらと若干の違いがあるかもしれません。

所々、ネタバレもありますので、ご注意ください。

この本の良さが伝われば幸いです。

あらすじ・構成

静岡県熱海市を中心に起きた「伊豆連続不審死事件」で5人の男性が命を落とした。いずれも高齢・中年男性をターゲットとした結婚詐欺と見られ、5人それぞれが佐竹純子に多額のお金を振り込み、貢いでいた。

売れっ子ノンフィクション作家のアシスタント田辺絢子はこの事件に興味を持ち、取材を進め被疑者の中学時代の親友・篠田淳子の取材に成功する。明らかになっていない更なる事件に巻き込まれたと思われる男性の母・守川詢子は既に亡くなっている。そしてどのジュンコとも関わりのない福留順子。

悪女として世に知られた佐竹純子と同じ名を持つ4人のジュンコは共に秘密や妬みを持っていて、エピソード1~5、そして0……それぞれのジュンコの物語が遠く細く複雑に絡み合う。

各章で一人ずつジュンコの物語が進行し、その全てで佐竹純子の名前が登場しますが、実際にジュンコが佐竹純子と直接出会い会話をするのか、というとそうではありません。不審死事件で世を賑わせる佐竹純子とそれぞれのジュンコの物語です。

主な登場人物

佐竹純子…現在わかっているだけでも5人の男性を金銭目的で殺害した容疑で逮捕された元スナックホステス

篠田淳子…保険会社社員で佐竹純子とは中学の同級生、純子のことは嫌いだったが、周りからは二人は親友と思われていた。純子に追い詰められ不登校に。

田辺絢子…売れっ子作家である久保田芽衣のアシスタント。結婚出産を機にすっかりママタレになった芽衣に作家業への熱を取り戻してほしく「伊豆連続不審死事件」を追う。3歳年下の雅也と結婚、流産を経験。

守川美香…出会い系サイトで佐竹純子と接触していた形跡があり現在行方不明の守川正志の妹、母の守川諄子はすでに亡くなっている。守川家は土地を所有し、一家は誰も働いていない。

福留順子…通信会社の社宅に住む主婦、小学4年生の健人は自慢の息子。テレビのコメンテーター久保田芽衣を嫌う。夫の上司の妻である蒲田里穂子とのご近所付き合いに悩む。

鵜飼優子…久保田芽衣のアシスタント、「伊豆連続不審死事件」と同時に「八王子連続不審死事件」も追っている。

感想・考察(ネタバレ有り)

「佐竹純子に何かしら関わった・影響された女達の波乱の物語」であることは間違いのですが、出会い系サイトで“宝塚風”のハンドルネームを使い複数の男性からお金を騙し取っていたのは実は篠田淳子だった、という結末でした。

エピソード5最後の佐竹純子の鵜飼優子に対する発言「篠田淳子を調べれば私のこともわかる、私とあの子は一心同体(P.307)」が篠田淳子を陥れる嘘である可能性はエピソード0から否定できますし、エピソード1書き出しに「五日前に起きたアクシデントがようやく鎮まり~(P.9)」とあります。これはおそらく出会い系サイトで知り合い貢がせた守川正志を殺した、ということだと思われます。

エピソード2で田辺絢子の夫・雅也も「モンスターなんて言葉で片づけられない、野蛮で凶暴(P.118)」と佐竹純子を表現していますが、雅也が出会い系サイトでやり取りしていたのは篠田淳子だったのでしょう。

色々と「あれは何だった?」「なぜあの人はあんなことを言った、したのか?」がはっきり書かれていない部分が多く、スッキリ全て解決!とはいかない「モヤっと」が残る1冊でしたが、個人的にはその推測・考察も含めて楽しめました。その疑問点をここから書いていきます。媒体によって違いがあるかもしれませんが、ハードカバーのページ数で細かい箇所も記します。

拘置所の佐竹純子になぜ全てがわかるのか?

大野美登里が起こしたとされる「八王子連続不審死事件」と久保田芽衣の娘がアシスタント田辺絢子に殺害されたとされる2つの事件に佐竹純子はかなり鋭く推理し言い当てています。「情報が入ってくるのよ(P.305)」で片づけられるものなのか?考えられるのは鵜飼優子や小井戸夏子のように佐竹純子に魅了された外部の人間が彼女の言葉に操られ情報を取ってくるように動かされているのでしょうか?もっと多くの人間が操られている可能性もあります。

田辺絢子の事件は「赤ん坊を殺したのは久保田芽衣(P.306)」と見事に言い当てましたが、小井戸夏子の推理を自分のものにしただけ?もう一方の「八王子連続不審死事件」の真相は本書では分かりません。ただ「守川正志は他の人の仕業、美登里じゃない(P.305)」と言い当て、かなり説得力はあり佐竹純子の推理を真実ととらえていいと感じました。すると別の疑問が…

「八王子連続不審死事件」で殺されたのは誰?

大野美登里は計6人を殺害とみられ「3件の殺害について審理(P.284)」とあります。この3件とは①幼なじみの守川美香②父・守川繁③兄・守川正志です。佐竹純子の推理を正しいと仮定していますので、①②は大野美登里、③は篠田淳子の犯行とします。では「他の3件、美登里がやったと思うわ(P.305)」とは誰のことなのか?大野美登里が殺す人物があと3人もいたでしょうか?美登里の周辺にはスナックのママとオーナーの島崎正太郎、この二人は美香とのケンカ(P.196)を見ていますので、殺された④⑤の可能性もあります。あと一人は?登場する人物は「母に諌められ、美香に謝りに(P.287)」の母ですが、これが⑥?なぜ母親を殺す?あとは「同級生のミドリなんか、お兄さんの家庭内暴力でボロボロ~~小学校の先生(P.157)」兄がいたようですが、他の記述は無く殺す理由まではいかないかと。

ただこれにも篠田淳子が関わっているとしたら…ソチオリンピック前の2014/2/14バレンタインデーに守川正志を殺害したと考えるのが妥当です。ここで篠田淳子は守川家に目を付けた可能性もあり「出会い系サイトそのものを、もうやめよう(P.312)」と決意したようですが、これで大人しくなるとは限りません。実際にターゲットに接触して、金を貢がせ殺すといった「伊豆連続不審死事件」のような犯行に手を染める可能性も、佐竹純子のように。スナックでの美香と美登里のケンカは2014/7/22なので半年近く守川家を調べ、美登里の犯行に見せかけ守川家の財産は自分のものにした?佐竹純子は「④⑤⑥のどれも大野美登里の犯行」と言っていますが、篠田淳子はその予想を上回り④⑤⑥全てやった?もしくはどれか?「あの子に影響されて今の私がある(P.307)」から篠田淳子が佐竹純子以上のモンスターであることも考えられます。

守川正志の篠田淳子へのメールで「どいつもこいつも女ってやつは、男の純情を踏みにじる(P.311)」とあるので一度断られているのでしょう。それはP.289の守川正志から大野美登里への最後のメールを無視されたこと、と考えることができるので、P.287からの大野美登里の冒頭陳述は部分的には正しいことを言っている、と推測しますが、やはり①②は大野美登里の犯行と見て間違いないかと。

佐竹純子は5人殺害容疑なので「私より多く殺してるのは私より大物に見える、私が注目されなくなる!!」という焦りから来るデタラメ?なら「6-1=5」でなくもっと少なくするか…

全く関係ないといえるエピソード4は何?

社宅のご近所付き合いに悩む福留順子のエピソード4は読んでいる最中からはっきり言って「なんだこの無駄話…何読まされてるんだ」とページ稼ぎにしか思えませんでした。テレビタレント久保田芽衣を嫌い、佐竹純子に似てると言われると怒る福留順子は上司の妻で年下の蒲田里穂子の勝手な振る舞いに日々イライラしていますが、福留順子も結局は自分が1番上に立ちたいだけで蒲田里穂子がいなければ、彼女と同じように近所の人から嫌われるであろう人物です。恵原(エハラ)聡美を「エバラさん」と呼び、息子や貯蓄を自慢してすでに嫌われていますし、無自覚に人を見下しているのでしょう。

本筋とはほぼ関係ないエピソード4で「バタフライエフェクトは、今の時代なら、そう馬鹿げた現象でもない気もする(P.255)」という1文が登場します。情報伝達が進んだ現代社会で佐竹純子のような悪女もあっという間に広く世に知られる、影響を与える時代になりました。「そんなものに振り回されるなんて愚か」ということを作者は今作を通して言いたかったように感じました。ワイドショーやSNSに振り回されないように気を付けましょう。

ジュンコの共通点

P.183からのスナックオーナー島崎「男は誰かの役に立ちたい、援助したい。アイドルやスポーツ選手に声援を送り、そのせいで全財産をつぶしても自分に酔ってしまえる」「女は代償を欲しがる。金やモノならわかりやすいが、欲しがる代償は形のない愛情だった」

物語にそこまで関わらない島崎が語っている場面ですが、なかなか核心を突いているようにも感じました。各エピソードに登場するジュンコは誰からも愛情を受けていません。それが彼女たちを日に日に狂わせていったのでしょうか?登場するどのジュンコも幸せではないですが、事故に見せかけ島崎に殺された守川詢子だけが浮気ではありますが愛情をもらい、幸せだったのかもしれません。守川正志も母親・守川詢子の生前は恋人らしき人もいた(P.160)ようですし、守川繁については記述が少なくなんとも…

付け加えるなら「女のマウントの取り合い」も挙げられます。エピソード5の優子とミツコの場面もホテルのラウンジでミルフィーユを食べ“オシャレなできる女”をアピールしたら、ミツコは「私、来月、結婚するんだ(P.295)」と返す。年下のハンサムな夫がいる、結婚して子供がいる、結婚してないが仕事で成果を上げている、裁判傍聴人の倍率を競う、などどれも客観的に見れば“くだらない”と言われかねない争いですが、本人にとっては大事なことなんでしょう。ジュンコ以外の人物も佐竹純子に影響されてか、 “幸せ”を測る物差しが狂いジュンコ達のいる所へ落ちていくようにも見えます。

またエピソード4で上司の蒲田部長を助けるために五百万円という大金を貸してしまう福留順子の夫もこれにあたるのでしょうか?「誰かを援助」の“誰か”は女でなくても成り立つ…とはどうも思えません。福留順子の夫が助けたかったのは蒲田里穂子ではないか?と不倫関係などを考えます。「娘の子守り、ありがとう(P.265)」と赤い髪を黒に戻し、ネイルも無し、珍しく頭を下げた里穂子。短い場面なのでこれが何を意味するのかもはっきりと書かれていません…福留順子の夫が妻の豹変を里穂子に話し、久保田芽衣の娘のように自分の娘を殺されてしまうことを想像したのかもしれません。

篠田淳子は何をしたのか?

  1. 不登校になり家庭内暴力
  2. 飯田野梨子の自殺
  3. 守川正志を殺害
  4. ヤスカワさんを…

このような時系列ですが①は「母の目が怯えている、逃げ出す準備もはじめている(P.31)」田辺絢子に家庭内暴力の話を出され「いつの間にか拳を振り上げていた(P.68)」から間違いないと思います。ただエピソード1は「私」篠田淳子の目線で進行するのでこれを信用していいのかも疑うべきであって…そうなるとどの推測も無駄になってしまいますが。②は佐竹純子の仕組んだ“いじめの濡れ衣”を苦に自殺と思われ、篠田淳子は全く知らなかったようです。③は篠田淳子の犯行で確定でしょう。

今回この記事を書いていて最大の謎ともいえるのが④です。エピソード1の最後に“声”が聞こえ佐竹純子の同級生だと知られた篠田淳子はヤスカワさんを近いうちに殺すのでしょうか……それともお金にならない殺人はやらないか。佐竹純子以上のモンスターなら「誰かを操って、誰かを消す」なんてことも…

そもそも「なぜヤスカワさんはカタカナなのか?」これがわかりませんでした。あとはP.290の鵜飼優子の元同僚ミツコがカタカナですが、この2人に共通点はない(ミツコは名前なので比較することが間違っているかも)。「その名前も忘れていた、漢字まで正確に思い出している(P.19)」の直後に“ヤスカワさん”はカタカナで書かれる違和感があります。篠田淳子は仕事での信用はあるようですし、昼食と共にしたのは25回(P.21)とはっきり覚えていて、自分の興味のないことは頭に入らない、ということ?会社のコーディネーターのヒグチさん、優子の不倫相手トミナガさんもカタカナでした。ただ重要な人物でないというだけか…

最初と最後に出てくる「浅田真央をあんなに応援してたのは何?」も謎です…「スポーツ選手に声援を送り(P.183)」と関係しているのか?「頑張って」「うん、頑張る」は自分を浅田真央だと見立てて守川正志を殺しに行く“頑張る”ということか。またショートプログラムで失敗し、フリーで最高の演技をした浅田真央と篠田淳子はどうも重ならないような…

ちなみに浅田真央さんはソチオリンピックではショートプログラムはショパン「ノクターン」フリーはラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を使用、流石にここまでは関係ないか…彼女も宝塚が好きとか、宝塚の公演でこの曲が使われていたとか?

モンスターでは足りない、同士とは

「昼休憩だけでも、あの連中から解放してくれ、そんなふうには言わなかったが(P.24)」と実際に言わずにヒグチさんに分からせた、こういう場面が篠田淳子だけでなく何度かあります。恵原聡美の「デイサービスから電話があって…今から迎えに…(P.258)」と蒲田里穂子の娘を代わりに預かってとは口にはせず福留順子に子供を預けます。P.269から久保田芽衣の「自分の欲求を人に託してその人を介して欲望を満たす」説明が始まりますが、佐竹純子はこの点を「同士って感じがする(P.305)」と言っていたのでしょう。

篠田淳子・恵原聡美・久保田芽衣・佐竹純子の共通点は人を殺している、ということ。さらに大野美登里のP.288冒頭陳述で「結婚相手じゃないとエッチはしない」「資産を全部くれるというなら結婚してもいい」とあります。これは自分の身の潔白を証明するためのものなので「資産を私に渡すよう上手く仕向けました」なんて言うはずはありません。

田辺絢子もカフェでパンケーキを食べている(P.107)と騒がしい男の子とそれを注意しない母親に苛立ち、さらに投稿サイトに悪口を書かれ怒る。後日P.127同じカフェでベビーカーに「入ってくるな」と念じ、親子は入店しませんでした。これも“プチ”モンスターなのかもしれませんが、このくらいの経験なら誰にでもありますね。

まとめとおまけ

このようにジュンコだけ悪者というわけでもなく、他にもねじ曲がった人物は多く登場します。この本のレビューには「女ってこえ~」系のお決まりの感想が多くありましたが、ここまで書いていて思ったのはやはり「そんなことでマウント取り合ってアホらしい…」という点でした。

田辺絢子にしてもそんなに攻めたルポが好きなら自分で書けばいいし、「ルポ書いてください」と普通に言えばいいのになぜ身代わりにまでなったのか?もわかりません。これもモンスターを超えた久保田芽衣の為せる業なのでしょうか?田辺絢子には言葉にせず久保田芽衣にルポを書かせる“モンスター”業はなかったということか?まだまだ疑問は残りますが、最後に「?」と思った箇所をおまけとして記して終えます。

P.28ヤスカワ「この時計どうしたんですか?」に篠田淳子「……」男に貢がせたということ?時計に関する記述は以降登場しません。

P.31「たった今口にした名前は、私…いいや私たちを崩壊~」私を崩壊させたのは佐竹純子で家庭を崩壊させたのは自分自身の家庭内暴力?それを認めたくない。

P.48中学生の篠田淳子は「南青山から引っ越してきた」と噓 、P.75オフィス芽衣も裏青山を南青山と見栄、偶然?

P.130久保田芽衣が掲示板へ「子供なんていらない」投稿、田辺絢子はこれを読むが、芽衣だと気付いた?

P. 288大野美登里の肉じゃがを守川繫は気に入るP.26ヤスカワ「男は胃袋を掴むのが1番」篠田淳子が敬遠していた“行儀の悪い”派遣の女性社員の中に大野美登里がいた?「地元では名の知れたヤンキーだった(P.24)」「同級生のミドリなんか~~暴走族にも入って(P.157)」

P.300小井戸夏子「そんなに甘くないわよ」は久保田芽衣の娘の事件で田辺絢子に「懲役6年の実刑判決が出た、これで確定(P.273)」終わったかのように思われた事件を「旬の過ぎたルポライター(P.276)」として「不可解なことに気付いている、佐竹純子にアドバイスを貰ってでも暴いてやる」という意気込みか?もう気付いているのか…

P.313この声は誰なのか?佐竹純子?以前に2人で誰かを死に追いやったのか?飯田野梨子? 「あの子と過ごした2年間(P.29)」とあるので中学卒業後は篠田淳子と佐竹純子の接触はないと思われますが、「ノンちゃんが死んでいた(P.70)」で篠田淳子は動揺します。全て嫌な思い出を佐竹純子のせいにして、自分の都合のいいように記憶を書き換えていたのに思い出してしまった、もありますし「頑張って」「うん、頑張る」と自分に語りかけている二重人格的なこと?”5人のジュンコ”と言っておきながら多重人格の中に「6人目がいた」的な展開も予想しましたが、なさそうです…

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