薬丸岳さんの「ハードラック」のレビュー記事になります。
所々、ネタバレもありますので、ご注意ください。
この本の良さが伝われば幸いです。
あらすじ・構成
母親の再婚相手の家族となじめず上京したものの、仕事もうまくいかず派遣切りに遭い、今日を食べていくのに苦労するネットカフェ難民の相沢仁はネットカフェで知り合った人物にも裏切られ金を持ち逃げされ“闇”掲示板の怪しい仕事に手を出す。「ATMからお金を引き出すだけ」「指定された場所に中身のわからない荷物を運ぶだけ」などの仕事に使われ搾取されていることに気付き、今度は自分で掲示板に「何かでかい事をやろう」と仲間を集い軽井沢の資産家を襲い強盗をすることに。豪邸に押し入りナイフで資産家夫婦を脅し、物色していると後ろから誰かに殴られ、気が付くと豪邸は炎に包まれていた。仲間に連絡は付かず本名も知らない、そして焼け跡から3人の遺体が見つかったとの報道が…仁は警察に追われ逃亡しながら事件の真相を追うことに。
仁が主人公ですが「AはBを疑っている」「CはDに嵌められたと思っている」など各人物の視点でのチャプターも多く、読者はその断片的な情報を総合しながら読み進めていくことになります。
主な登場人物
相沢仁… 派遣切りに遭いネットカフェ難民として生活する25歳
鈴木明宏… 仕事で足を怪我し解雇され、仁と同様に住むところがない男37歳、仁の書き込みに返事をしてきた最初の人物、
バーボン… 引っ越し屋の仕事で鍛えたガタイのいい男30歳、仁の書き込みに応募
テキーラ… 鼻と口にピアスをしているバンドマンのチャラい男24歳、仁の書き込みに応募
ラム… 茶髪の長身の女、大きなボストンバッグを持っている、仁の書き込みに応募
森下… 闇の掲示板で仕事を紹介している“裏”社会の人間
勝瀬信一… 事件の真相を追う長野県警の刑事
感想・考察(ネタバレ有り)
嵌められた主人公が警察から逃げながら真相を追う、ハリウッド映画でよくあるストーリーですが、物語の場面展開も目まぐるしく新たな情報が次々と明らかになるスピード感が見事な1冊でした。信じてくれる母親にもっと早く頼っていれば…という仁の後悔ですが、転落していく時はこのように選択を間違え続けることで起きるのでしょう。
闇掲示板で知り合った鈴木以外は全員が偽名でとばしの携帯で連絡付かず、森下に助けをもらいながらも正体を突き止め、「バーボンは菅野剛志、ラムは北代舞でサカイで成海俊、テキーラはサトウショウゴ」でした。どうしても納得いかないのはラムが男だったということ…P.302地下鉄の男子トイレ以外は探したが、出てきたのは背広姿の男、「老若男女どんな役でも(P.347)」で北代舞=成海俊が確定でしたが、「がっしりした手がコンプレックス(P.232)」もヒントでした。いくらなんでもそりゃ無理がある……絶対途中でバレるよ。細かいツッコミを入れるのもどうかと思いますが、いくつかの気になる点も含めてまとめます。
屋敷で3人をどう殺した?
ラムは仁を殴って気絶させ順番的には1階で縛られていた神谷綾香→2階を物色中のテキーラ→2階で椅子に縛られている最大の恨みである“振り込み詐欺グループのボス”神谷信司でしょうか。「神谷邸には隠し金庫(P. 371)」があるようですが、その場所まで成海俊は知っていた?直接会えるまで振り込み詐欺グループ内で出世したとはいえ隠し金庫までは知らない可能性もあるので、これは縛られた神谷信司に聞いたと思われます。
成海俊は死んだということにするため、その身代わりにテキーラも殺したわけですが(P.328成海俊は金属アレルギーなのでピアスを外させた)、テキーラは成海俊(テキーラにとってはサカイ)の指示でファミレスに来た?ここも気になる、ペットの餌やりで1週間成海俊の部屋で生活させ同一人物化してP.283報酬と携帯を渡す。サカイとしてサトウショウゴに指示を出し仁の書き込みに応募させたのか?書かれていないけどおそらくそうでしょう。ですが、仁の書き込みは誰に指示されたものではありません。「大きなことやりませんか」的な書き込みは掲示板ではよくあることなのか?
ファミレスでの作戦会議
パルプ・フィクション的なファミレスで犯行を計画する場面、ここでもいろいろと疑問はありました。仁の書き込みにもっと多く人が集まって来ていたらラムはどうするつもりだった?バーボン(菅野)に指示を出して人数を減らそうとするのか、鈴木は匂いが気になると作戦から排除してちょうどいい人数になったけど…
では、仁がちゃんと作戦を考えてきていたら?仁に何も考えがないことを知っていたのは前日に会った鈴木だけのはずです。自分もそこにいるのだから「バーボンの作戦にしよう」と誘導したのか?
仁との再会後は「ファミレスで出来る話?(P.223)」と北代舞として嫌がりますが、サカイとして菅野にファミレスで目の前で指示を出していたのは、ガヤガヤしている方が菅野に「俺たちを見ているのは誰だ?」と思わせるため?「ウオッカを外せ(P.180)」で菅野は「見られてる…」と思い、後に「あの4人の中にサカイがいたんだ」と気付くのですが、「汚いおっさんを外せ」ではいけないのか?話は聞こえないけど「お前は見られているぞ」を菅野に印象付けるだけでもいいはずです。
仁が目覚めるまでに消防が屋敷に到着していたら?
殴って気絶させた相手がどのくらいで目が覚めるなんてわからないだろ…消防が到着した時に気絶している仁と「百万円の札束が落ちていた(P.138)」なんて怪しすぎるし、仁が消防に救助され全てを話したらどうなっていたか?「男2人と女1人と来た」と話しても「神谷夫妻と成海俊(仁はテキーラと思う)の3人の遺体が見つかった」で終わるかもしれませんが2人逃亡は確定、今時ファミレスにも防犯カメラくらい付いてるし、軽井沢のアウトレット(P.98)での買い物は描かれていませんが、P.360「軽井沢駅のトイレの外」のカメラを勝瀬にも見つけられていて、「バーボンとラム」として警察に追われいずれは捕まるのでは?
まとめとおまけ
こんな感じですかね、「ラムが男だった」これだけでここまでのハラハラドキドキが「は?」になってしまいますが…クライマックスまでは十分に楽しめましたので良しとします。読者は仁目線で物語を進めていますが、途中菅野目線での推理も入ってきて「え?ということは…」と仁以外の考えになる辺りは矛盾なく練られています。
ちなみにタランティーノ自身も昔ビデオ屋で働いていたみたいです。ちなみにとっても広い軽井沢アウトレット行ったことありますが、雪のシーズンは寒すぎてゆっくり買い物なんてできないですよ。
「振り返ろうとしたとき(P.107)」見られていたら仁のことも殺してた?
P.226森下を使って前園ゆかりにたどり着かなかったら、仁とラムは会ってない?「一緒に逃げているのは女と印象付けるため(P.374)」とあるが、捕まったら全てバレるのだろ…
「金庫にあったものを返していただきたい(P. 295)」菅野がUSBを持って逃げたのは想定外だった?仁を気絶させ、神谷夫妻とテキーラを殺し、菅野は指示通り1人で逃げた、成海俊は広い屋敷で1人「USBがないよ~」と探していたのか(笑)そんなことしてて仁が目覚めたらどうする…
P.302地下鉄のトイレに隠れてやり過ごす、背広姿の男は大きな荷物を持ってなかったの?仁と鈴木も簡単に警察から逃げられないだろ…
P.314マッチに店の名前グロス、鈴木が思い出すなんて都合良すぎる、思い出さなかったら話進まないけど、その時は成海俊どうする?
P.322菅野「サカイはラム」って仁に言えたでしょ「お前の近くにいるぞ」じゃなくて
「ぼくはもうすぐ生まれ変わる(P.350)」は成海俊が死んだことにして新しい人生?
P.329起こって数日の事件がテレビで名前と顔写真付きの全国公開捜査なんてないでしょ P.381仁は殺してないのに懲役7年にもなるか?
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