田中道昭「GAFA x BATH」5ファクターメソッドで読み解く、道・天・地・将・法

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特に読みたかったというわけでもないのですが、面白そうだったので手に取ってみました。グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾンバイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイの米中プラットフォーマー巨大企業を比較して“今-これから”を読み解くといった本書では「孫氏の兵法」をもとに話が進行します。

  • 道・ビジョン「どうあるべきか」
  • 天・タイミング「どう読むか」
  • 地・コンディション「現状把握」
  • 将・リーダーシップ「先導」
  • 法・マネジメント「構造形成」

の5点ですが、「これ以外にもあるのでは?」なんて思ったり…無理にでも5点に収められないこともないですが。「模倣から始まった中国メガテックが独自イノベーションで価値を創造、後発者利益から始まり今では先駆者利益」が今の中国の現状でしょう。

第1章 アマゾンxアリババ

オンライン書店(EC)からスタートし、何でも揃う「エブリシングストア」さらには「エブリシングカンパニー」としてクラウドサービス”AWS”、”アマゾン・ペイ”では金融・クレジット、法人向け”アマゾン・レンディング”、もはや通販サイトと1括りにできないまで事業を拡大したアマゾン。オンライン書店から始まった事業だが電子書籍”Kindle”で自らの基盤を揺るがしかねない“破壊的イノベーション”に踏み出せる決断力も挙げられていますが、とにかく“顧客第一”を貫く姿勢でそれゆえに“デス・バイ・アマゾン”つまり「アマゾンが成長するほど苦しむ企業が増える」それはどこの国でも起こっていることですし、イオンができたから商店街の八百屋が苦しかったり…創業者ジェフ・ベゾスの「地球で最も顧客第一」精神が「社会全体をよくする視点が不十分」と著者は評価していますが、アマゾンのおかげで商品が売れる企業もたくさんあるはずです。そこに出品している人もアマゾンの顧客と考えられますが。

対してアリババもやってることは大体同じなのですが、アリババの方が中国社会全体のもはやインフラになっていると述べています。”農村タオバオ”で都市部から離れた地方でも需要と供給をマッチングさせ地方創生、決済アプリの”アリペイ”無しにはまともに買い物が出来ない生活になっていて、それらをビッグデータで管理しています。

が、ここまで読んでふと浮かんだのは「でも中国国内だけの話でしょ?」「世界のアマゾンに比べたら…」ということ。これを言い出すと本書は何の議論にもならないのですが…この視点は無視できないはず、加えて創業者ジャック・マーが2018年に突如退任すると彼は共産党員だったと判明。国策企業と民間企業とを孫氏は比較出来るのでしょうか?自由主義・共産主義の話になると大きく趣旨が変わってきてしまいそうですが、アリババの“海外進出の可能性・未来”については特に触れず第1章は終わります。

2020年10~12月期売り上げ時価総額
Google6.0兆円137兆円
Amazon13.2兆円179兆円
Facebook2.9兆円80兆円
Apple11.7兆円238兆円
Microsoft4.5兆円190兆円

第2章 アップルxファーウェイ

“デザイン性・ブランド力・革新”のアップルはユーザー・エクスペリエンスを体験させることに重きを置いて、「少々高くても”iPhone”を買う」強烈なファンを話しません。iPhoneを土台に“アップル・ストア”でアプリの売り上げ3割を徴収し、プラットフォームを築きましたが、ただ高い物を売りつけるブランドではなく、ブランド力を通して自分らしく生きることを支援する企業であろうとしているようです。その一役担ったのが創業者スティーブ・ジョブズであることは明らかで、世界を何度もひっくり返してきました。現在のティム・クックについて詳しくは知りませんが、アップルを引き継げるだけで只者ではありません。驚いたのは顧客の情報・プライバシーを“活用しない”という理念、ビッグデータ x AIの時代に意外ですがそこで信頼を得ているようで、“アップルウォッチ”から心電図などの医療の分野にも拡大し、それは信頼のなせる業だと著者は述べています。これはMacから端末番号からIPアドレス・ソフトの起動、をアップルはわかっていてそれを”商売”には使わないということでしょう。

スマホ出荷台数でサムスンに次ぐ2位をファーウェイとアップルが争っていますが、ファーウェイはハードウェア会社にこだわりを持っています。研究開発員が約8万人、1兆4800億円が研究開発費、5Gなどインフラ技術で世界をリードする最先端の技術を有し、インテリジェントな世界を実現するためのハードウェア開発がメインです。社内法を整備しCEOは3人で半年ごとローテーション、情報サービス業には永久に参入しない、上場せず株は社員で保有、など斬新な方針です。ただまたも怪しい…創業者レン・ジンフェイは30年間でまともな取材は一切無し社内誌で考えを発するのが主な情報源…マスコミ取材を受けなくてはいけないわけではありませんが、人民解放軍出身で政府とのつながりをたびたび疑われてきました。そうしたことからかカナダでレン・ジンフェイの娘の会長が逮捕された“ファーウェイ・ショック”は株安を招き国際問題に発展しました。スパイ活動を疑われたわけですが、確たる証拠はありません…が、アメリカを始め、カナダ・オーストラリア・ドイツ・イギリスはファーウェイを警戒し“締め出し”は米中貿易戦争へ……

というか、先に外国製品を規制したのは中国ですよね?この点についても触れられず第2章は終わります。

ちなみに最新のスマホ市場シェアは2021年1~3月期でシャオミ、OPPO、vivoが出荷台数を伸ばし、ファーウェイは中国国内シェア3位の後退し、1位のvivoが22%、2位のOPPOが21%だそうです。ファーウェイはアメリカの制裁強化で半導体の調達に苦しんでいることが原因に挙げられる。世界ではサムスン、アップル、シャオミ、OPPOの順だそうです。

ファーウェイは2020年売上15兆円、純利益1兆円と苦戦しています、2021年6月にスマホ向け独自OSをリリース予定

第3章 フェイスブックxテンセント

“人々を繋ぐ目的のSNS”のフェイスブックと“SNSという手段で繋いでから事業”のテンセントの比較ですが、この章に関しては“手段と目的の違い”これだけなんです…あとは2つの企業の事業を紹介しているだけ、と言えます。正反対の経営者も面白いですが、まぁそのくらいです。

MAU(月に1回以上ログインするユーザー数)ではありませんが、DAU(デイリーアクティブユーザー)は2021年3月にフェイスブックが18億人ウィーチャットは4億人とのこと。利用者だけで見れば全世界展開しているフェイスブックに分がありますが、中国国内をメインにしながらの4億人もすさまじい勢いです。「自国第一主義」から来る「閉じていく大国」のなか、人々がつながりを求めてSNSの存在感は増すことが予想されます。

大学時代から色々とその“激しさ”から問題を起こしていたフェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグは「ハッカーウェイ」の考えのもと、問題・改善点を見つけてとにかく動き、自分の正しさを信じて時にはルールや規則とも戦うため、嫌われることもしょっちゅうです。ハッカーというとイメージ悪いですが、「素早く作業、試す」というのが本来の意味だそうで、「完了は完璧に勝る」もザッカーバーグの言葉です。フェイスブックは“繋ぐ”を目的にしているのでVR・ARに分野に力を注いで、個人情報の厳重化に伴い今後は個人間でのメッセージ型へのシフトも検討しています。

「大統領選を左右したフェイクニュース」「もはやメディア」「プライバシー認識の甘さ」でフェイスブック編を締めますが、「テレビ・新聞はいいの?噓多いよね」と思います。この点は一党独裁で情報を独占している中国との比較にはならないかなと。

「テンセントのウィーチャット」は正直、この本読むまで知りませんでした…そのくらい日本では馴染みがないのでは?こちらはSNSをきっかけに金融・自動運転・医療からさらにアリババと“新小売”で競っていますが「いろいろやってるんだね」で特筆することはない…面白いのは“慎重派“創業者ポニー・マーの「後発こそ最も穏当なやり方」「テンセントは”模倣者“であって”創造者“ではない」という言葉です。潔いといいますか、真似て追いついてから追い越すのが中国のやり方ですからね。

本書の中では初めて”ゲーム“の分野が出てきましたが、これらのメガ企業の若干手薄なのがゲームでしょう。大人気ゲーム「フォートナイト」を展開するエピック社の現在の主要株主はテンセントです。「3割払え」でお馴染みのアップルと喧嘩したエピックは「投げ銭」機能で「投げ銭にも30%かかるのか問題」でアップルに勝利した形で「手数料はとらない」となりました。ここは少し本書の内容から逸脱していますが、テンセントはアメリカと例えばアップルと完全に対立しているわけではありません。アップルというプラットフォームでランキングに上位表示されている中国系のゲームも日本を始め世界で力を付けていて、それは「アップルでリリースされているから大丈夫だろう」とアップルという”ブランド“を借りているのです。ただ2021年の年明けには約4万の中国系ゲームがAppStoreから削除とのニュースもあり、締め付けは事実…ライセンスがない有料・課金制ゲームの削除は当然といえるけど

第4章 グーグルxバイドゥ

この章も“比較”という面では薄い内容ですが、「今のところGoogle圧勝」という結論でいいでしょうか?“検索サービス”という分野において“情報”が最も大事なのは当然ですし、そうなると“利用者数”が不可欠で、全世界を対象にしているグーグルに分がありますね。ただ「中国に情報抜き取られる!中国製品は使わない」という方も「グーグルも情報抜き取ってるよ、利用されてるよ」ということを改めて認識した方がいいでしょう。“全能”かどうかはわかりませんが、まさに“全知”グーグルは「現代の神」と称され、欲しい情報のそばに広告を置くことで利益を得るばかりか、誰でも広告・宣伝をすることを可能にしました。その広告がグーグルの収益のメインとなっています。

2020年1月のシェア統計ではiOS : Androidでおよそ世界は2.5 : 7.5、日本は6.5 : 3.5と世界ではAndroid優勢が続いています。ただアプリダウンロード数で倍以上グーグルプレイがリードしていても、収益ではアップルストアの半分…「3割払え」のアップルは強さを見せます。広告だけに頼らず「取るもん取らないと…」という見方もできますが、そこは“道”「世界中の情報を整理し、人々がアクセスできるように」を掲げて、そのための情報を集めるには使ってもらうことを優先しています。

現CEOスンダー・ピチャイもクロム・アンドロイドの制作を統括したエンジニア出身で、またバイドゥ創業者ロビン・リーもシリコンバレーで勤務していたエンジニア出身です。共通点として「TakeよりGive」を感じましたし、技術を磨き続けることの重要性は今後も両社の根幹となるでしょう。バイデゥの事業まとめでも触れられていましたが、斬新な“創造”はなく、ただ話しかけるだけで利用できる音声アシスタント“デュアーOS”は“アレクサ”でしかなく、自動運転で実用化を進めているのも中国政府から「やれ」と言われたからやっているだけです。

ここでも“1つの民間企業”と“国策企業”という構図になってしまい、純粋な比較にはなりません。「今日からグーグル禁止ね」とひとこと言われたら全てが停止せざるを得ない統制システムですから、中国から撤退したグーグルの判断も理解できます。国のトップの一言で約14億人の中国市場を失うんですから、というかこれが中国最大の強みでは?

グーグルの“法”では「10の事実」「OKR(Objectives Key Result)」「SIY(Search Inside Yourself)」など様々なワードがありますが、真新しいものはありません。「現状に満足せず、高い目標」「優先度を意識」「雑念を払い、人々を幸せに」ザッとこんなカンジです。「10の事実」の3番目にある「自社のサイトにユーザーを留めるのを短くしよう」を欲しい情報を一発で届けようという思いが伝わります。

第5章 総合分析と新冷戦

分析して特に重要なのは“道”と“将”とのこと。ミッションはアマゾンが顧客志向、グーグル・アリババが社会問題解決志向、アップル・フェイスブック・テンセントが価値提供志向、バイドゥ・ファーウェイが技術志向、になるようですが、結局のところ曖昧です。アマゾンだってドローンという“技術”を使って、買い物に行けない人の“問題解決”をし、地元のスーパーでは手に入らない新たな“価値提供”をしたりしています。

「ミッションが事業を定義し、イノベーションを起こす」

が本書で著者が最も強調したいポイントだそうですが………「まぁ、そうだろうね」と思ってしまいました(笑)ここまで真面目にレビュー書いてきたのに(笑)「それができたら誰も苦労しないよ」って思ってしまうのはズルいですかね。

その後は急に収益の話になって、中国の方が新規投資に積極的だとか、フェイスブックの営業利益率が驚異の49.7%!!とか、各企業の今後の展開をサラッと。GAFAへのデジタル課税の話は少し出てきますが、12%と法人税が低いアイルランドにGAFA・マイクロソフト・ツイッターなどが逃げ込んでいることは紹介されません、ちなみにアメリカは約30%(3割払え!!)

2019年の本なので当然ですが、アメリカ大統領選挙の結果はありませんが、フェイスブックのフェイクニュース問題は取り上げています。この後のトランプ前大統領のツイッター・アカウント停止の是非など、情報の取り扱いはメガ企業にとっても重要な問題であることは確かですが、それはテレビ・新聞も同じことですよね?むしろ外国資本に乗っ取られている日本のマスコミの方が大問題かなと思います。

今後の米中新冷戦のついてこの章では締めくくられ、「データは誰のもの?」そこには信頼・信用を失ったら、メガ企業もピンチ…とあります。が、アメリカと中国のどちらの“国”を信頼するかでは明らかではないでしょうか?最新2021年5月にはアメリカでユニクロもウイグル強制労働?問題で規制の対象になってしまい、それに中国がいち早く反対声明という、ちょっとヘンテコ?な構図がありました。コロナのパンデミックもありましたし、こうした流れから“信頼”という点で中国に不利な状況が続くことが予想されます。

終章 日本への示唆

短い章ですが、日本のセルフレジなどは画面のタッチなど多く「ただ立ち去るだけ」に比べまだまだ改善の余地があるといい、日本人のおもてなしとホスピタリティを取り戻すことが求められる。最後は再び孫氏の言葉「戦わずして勝つ」を目指すべきだ、そしてそのための準備をする、その姿を世界に見せることで日本の大きさを示そう。

まとめ

ITの世界は移り変わりが早いので、スマホのシェアであったり、数字の面で「ん?」と思い、調べたりして、本記事を書いてきましたが…コロナやアメリカ大統領選挙以前の本ですし、読めないですね、世界は。ただこの2019年に時点で中国の怪しさみたいなものは感じてましたよね。先述しましたが、本書は一党独裁・情報統制・発表数字も正確かどうだかわからない中国の“負”の面に全くと言っていいほど触れていません。その点を無視して、先が読めるとは思えませんし、米中新冷戦は2国間だけの問題ではありません。その他多くの国がどちらの側に付くかが大きな争点になることは明らかで、はっきりとモノが言えない日本に重要なのは“時流”そこを見誤らないことではないでしょうか。もちろん技術に対して投資をして乗り遅れないことも急務ですが。

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