石田衣良「池袋ウエストゲートパークXI 憎悪のパレード」でもおれたちはここでいきてくしかないよな

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「北口スモークタワー」

脱法ハーブ常習者の運転する車に轢かれ入院することになった祖母の仇を打つため、スモークタワーに放火未遂をした12歳の女の子ミオンを助けるためマコトが手を貸します。「ドラッグはGボーイズの敵」と言うキング・タカシから紹介された脱法ハーブの専門家“教授”の指導のもとドラッグの知識を深めスモークタワーを潰す策を練ります。そもそも脱法ハーブは違法物質をひとつずつ特定してから法律で禁止しなくてはいけないので、とてもその制定が間に合わない、翌月にはこの前とは似ているけど”少し異なる”ハーブが3千円で出回るとのこと。階を上がるほどディープな商品を扱っていて最上階のオオコシの店では海外で出回り始めたばかりの最新ものがあって「吸引用ではありません、吸わないでください」とわざとらしくポスターが貼ってある、これで客が勝手に悪用していることになるわけだ。売買だけでは法律で取り締まることはできないので警察も手が出せないので堂々と営業をしている。

警察に捕まえさせるのが最も効率的でオオコシ自身が大麻の常習者であることを掴み、自分で栽培しているアパートの一室へ潜入し証拠の大麻を数枚持ち帰ることに。それを店に並んでいたようにパッケージしてタワーの最上階オオコシの店の棚に忍ばせて、匿名で警察に知らせて“販売”の罪でオオコシの店を潰すことに成功したのだった。

教授にもミオンほどの年齢の子がいたが、自身も研究の末マリファナにはまり家庭を失った過去があり、健忘作用で子供の成長の記憶を全て失ってしまい、その罪滅ぼしで今回マコトに協力してくれたのだった。「あんたがダメな父親かどうか、これからの時間で決まる。ミオンもあんたがしてくれたことに感謝してる。」

「ギャンブラーズ・ゴールド」

Gボーイズはパチンコチェーン“ジャルディーノ”から「明らかに売り上げが落ちている、ゴト師を疑っている」と依頼を受けマコトもそれを手伝うことに。店内に監視カメラが増えた現代のパチンコでクギの操作や昔ながらのイカサマは考えにくく、成果がなく1週間が過ぎたある日マコトは汚れた身なりをしたSEを名乗るユキヤに「ゴト師を探しているんですよね、パチンコのことならたいていはわかります」と声を掛けられる。ユキヤの話では不正チップや電磁波でコンピューターから操作していて、店のフロア係に協力者がいるとのこと。その予想通り協力者がいてGボーイズがあっさり制圧、台を開けると配線を操作する基盤が取り付けてあった。深夜監視カメラの映像がない時間を狙って台に細工をしていたのだ。

トラブルは解決したがマコトのもとにユキヤの妻ミサトと娘ルナが訪れる。ミサトは自分の食事をルナに分けて空腹に耐え、なんとか4歳の娘を育てていた。ユキヤはパチンコ依存症で生活費を使い込み借金までしていて、「儲かる話がある」と言いまわり金を引っ張っている有様。マコトはタカシに“ギャンブルをやめさせる名人“一部上場家電メーカーの山崎を紹介してもらうことに。山崎は「医者に通う、自助グループに出席する」とアドバイスをするだけ、で自身も義父の葬儀の香典をパチンコに使い、家庭を失い大学受験を控えた娘に会うこともできないまでになっていた。「あなたは今もどうやって嘘をつこうか考えていますね。どうやって金をつくりギャンブルに行くか。それは病気なんです、治していきましょう」

ルナが「お父さん、お金いるんだよね、色鉛筆も折り紙もなくても平気」と教材費と書かれた封筒をユキヤに差し出し、ようやく正直に「山崎さん、おれの病気を治してください」と精神科に通うようになった。借金の返済に20年かかる計算だが、新しい借金が増えることはなくなっていた。「ユキヤが誰か助けたくなったら、おれに声かけてくれよ」誰もが見栄っ張りで攻撃的で安らげない、そんな病を抱えて生きている。

「西池袋ノマドトラップ」

池袋の街を羊の代わりにノートパソコンを連れて生活しているフリーのエンジニアのお話。西池袋にコワーキング・スペース“ザ・ストリーム”という見慣れないカフェのような店を見つけたマコト。何の店かわかってなかったが“トーク・オブ・タウン”の名刺を見せ取材の振りをすると店長は話を聞かせてくれてエンジニアで常連の樋口レオンを紹介してくれた。さらに店長は目白のコワーキング・スペース“ホワイトベース”が営業中に店裏のケーブルを切られ停電した話を聞かせてくれた。レオンはカフェ、ファミレス、図書館などを転々とし、ウェブの更新とアフィリエイトの仕事を低賃金でこき使われている底辺のエンジニアだと嘆くが、一発逆転の秘策として堂上常樹という著者の「わたしが12時間で3億稼いだ方法」という本を渡してきた。“絶対恋愛成就”を書いた情報商材の宣伝をSNSとメールのばら撒きで行い期間限定とうたって10万人に売りつけたのだそう。また堂上は現在“ビットゴールド”というデジタル貨幣を運営している。次の日“ザ・ストリーム”は窓を割られ、扉に「次へ火だ」とスプレーで書かれ襲撃されたとタカシから聞かされ、目撃者の証言では極めて危険な“ツインデビル”高梨弟の仕業だという。今回の仕事は“高梨兄弟を池袋から追い出すこと”となった。

ザ・ストリーム襲撃の話をレオンに聞かせるとどうも様子がおかしい、何かに怯えている。レオンはビットゴールドのプラチナ会員とのことだが…そして3件目早稲田“ネルフ”が放火の被害にあったと知らせが入るとレオンは高梨兄弟に狙われていると話すのだった。レオンは高梨兄弟をビットゴールドに誘ってしまい3百万ずつ払わせたが、配当は3か月しか続かずこうして身を狙われることになった「金を返せ、堂上に合わせ、昇格させろ」と脅されマコトはこれを利用することに。レオンはビットゴールドの説明会に高梨兄弟を呼び出し人目につかない搬入口でGボーイズの武装隊がマコト、レオン、高梨兄弟を冷蔵トラックの荷台に押し込み結束バンドで縛り上げる。タカシは「お前らはおれたちの縄張りで暴れすぎた、罰を与える」と言い瞬間接着剤を兄弟の手に垂らし耳を塞がせる、閉じた目にも垂らし「山に捨てる、二度とGボーイズの縄張りに近づくな」

レオンはビットゴールドをやめて、エンジニアに加え中古カメラのせどりを始め、堂上は出資法違反で逮捕された。また”ノマドライター・マコト”はザ・ストリームの名誉会員になり、そこでたまにコラムを書くように。

「憎悪のパレード」

池袋の街を行進しながら中国人へのヘイトスピーチを繰り返す“中排会”(中国人を祖国日本から徹底排除する市民の会、代表・城之内文香)と“ヘ民会”(ヘイトスピーチと民族差別を許さない市民の会、代表・久野俊樹)の争いが激化している。池袋チャイナタウンには中国人が経営する料理屋・ネットカフェなどが増えそれを“日本の乗っ取り”と批判している。先に手を出した方が悪者としてイメージがついてしまうため、今回のGボーイズがへ民会から依頼された仕事は「中俳会を守ってくれ」という“逆”のような内容、というのもへ民会から分裂した堀口竜也が代表を務める過激派“レッドドッグス”の存在があるからだ。

マコトには中国出身戸籍上の妹でキャバクラでナンバー1ホステスの郭順貴(クーシュンクイ)がいて、クーが友達・山下明花(メイファ)を連れてきた。彼女の夫は池袋第三昭栄ビル(パラダイス)に店を構える“花陽飯店”のオーナーであり、最近店の前に動物の死体を置かれる、ゴミをまかれるなどの嫌がらせが続き、ビルに入る他の店では放火を疑われるボヤ騒ぎもあったとのこと。既に閉店しビルから退去したその店のオーナー・鳥居芳文に話を聞きに行くが何かを隠している様子。マコトはさらに中国出身の研修生を手助けしていて、様々な分野に顔が効くリンに話を聞くと池袋再開発を主導しているエンパイア不動産に北京系の資金が流れていて、池袋パラダイスの土地を狙っている。

へ民会のメンバーが襲われケガをしたのを機に、中徘会の仕業と決めつけ反撃に会見を開く久野代表。そのころ池袋パラダイスで火災が起き、住人の男性が亡くなり、これも放火の可能性があると報道される。事件の概要が見えないマコトは中排会に揺さぶりをかけるため、「デモを何事もなく進行させたい」という口実で中排会と会談を設けることに。マコトとタカシはホテルメトロポリタンのスイートルームで中排会の代表・城之内とナンバー2塚本、ボディーガードの関谷と会い「襲撃事件もあり、今度のデモは激しい衝突が予想される、先日の襲撃事件は中排会の犯行ではないんですよね?」「デモとは別の部隊があるんですか?」の質問で空気が変わった。さらに「第三昭栄ビルの火災と再開発は?」では塚本が反応したが、決定的な収穫は無く会談を終える。

マコトのもとに火災で知り合いを無くした鳥居が訪れ、パラダイスビルを追い出された経緯を話す。トクトミ産業と言う地上げ屋に嫌がらせをされ立ち退きの大金をチラつかせ口外しない念書まで書かせる徹底ぶり、そのトクトミの代表が中排会の塚本だった。中国人へのヘイトを煽りながら、北京系の資金を受けるエンパイア不動産の有利なようにことを運んでいたわけだ。マコトはまず関谷に塚本の正体をバラすが、中排会に多額の資金を入れたのが塚本で簡単には切れない、関谷から城之内に話すと来週からは再開発とは関係のない新宿でデモを行うことになり、マコトはヘイトを池袋から追い出すことに成功した。

池袋での最後のデモ当日、いつものように中国人を罵る声が響く行進が進んでいたが、黒ずくめの集団十数人がへ民会に襲い掛かり混乱が起こる。追い詰められた塚本がとにかく騒ぎを起こし池袋北口の評判を落とす作戦、その時ナイフを持った男が中排会の城之内を狙うが、関谷が受け止めナイフは腹に刺さる。しかし、大事にはいたらず救急車とパトカーのサイレンで混乱は散っていった。城之内を狙ったのはへ民会でも塚本が集めた黒ずくめでもなく、元中排会のメンバーで過激なテロを提案したが受け入れられずに脱退した男であった。

鳥居の念書内容をマコトが公表し捜査が始まり、塚本はパラダイスから手を引き、死者がでた放火の主犯となればもう好き勝手はできない。こうして争いは終わりを迎えたが今もどこかで憎悪のパレードは行われている。それでも池袋ではマコト、クー、メイファと華陽飯店の旦那の少し早い花見が行われるのだった。

感想

“10”まで読んだのが確か10年ほど前… そこで一旦区切りがついてこの“11”から再スタートとなったIWGPシリーズ!懐かしくもあり、扱うテーマは新しく時代を捉えていてさすがの1冊でした。このスピード感と裕福でなくても誇り高いマコトと洒落た文体に改めて掴まれました。見事な第2シリーズの幕開けです。流れるクラシックはグレン・グールドがピアノで弾くバッハ集や、ヴェルディ「リゴレット」、バッハ「パルティータ」は長いのでどのあたりかはわかりませんが、これらの曲をかけながら本作を読むのもありです。恒例となっているタカシのファッション描写はイタリアの高級腕時計パラネイ、青ジャケット・白マフラー・くるぶし丈のグレイパンツなど収入源も気になってましたが、「集められた資金を運用、S&P500連動のインデックスファンドだ」と意外な返答がありましたね。

「今度タカシがキングになった話でもしてやるよ」の言葉通り本作11の直後に「キング誕生」というスピンオフも発表されていますので次回はそちらを読みます。

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